これぞ正当派名画座

三軒茶屋中央



私の家から、この劇場に行くときは、下高井戸から東急世田谷線に乗って
三軒茶屋に向かいます。この時から、既に三茶中央モードのスタートです。
世田谷線は、2両編成のカワイイ電車。最近では、新しい車両が入って来ているようですが、
外観が緑色、内部は床が板張りの昔ながらの車両。
この電車が、住宅地の中を走って行きます。とっても下町感覚。

そして、三軒茶屋。駅舎こそ、とっても新しくなりましたが、駅を降りると
道路沿いに、懐かしの風情がある商店街になります。
サミットストアという大型スーパーもここでは何故か街に溶け込んでいます。

そして、商店街を横道にちょっと中に入ると、
(昔から映画館はちょっと横道に入ったところにあるんです)
まず、三軒茶屋シネマ(かつては三軒茶屋東映という館名だった)そして、その奥に
目的の場所、三軒茶屋中央があります。
かつてはその裏にも三軒茶屋映劇という名画座もあったのだが、現在は
2館の名画座が健在です。

三軒茶屋中央は、今となっては珍しい一戸立ての映画館、
壁にレリーフのある建物、「各社封切」の看板、入り口にある時刻表。
テケツ(切符売場のこと。現在は自動販売機になったので使われていない)があって、
その横の扉を開けると、もぎりの女性がいらっしゃいませ、と愛想良く迎えてくれます。
名画座で育った私には、名画座が健在である事が実感できる場所。
もっと年配の方なら、これこそ映画館と思えるかもしれません。

切符を買って中に入ると、右手に、次回上映のポスターを貼った看板、
その裏が待合室のようになっています。石油ストーブが焚かれ、ヤカンが湯気を
立てている。とても懐かしい光景。
左手には、事務所があり、その前に木の机が置かれており、
その机の上で、男の人が、次回上映作品の劇場の看板を書いています。
タイトルだけが書かれた看板ですが、劇場前に掲げられている看板は
いつも劇場の方が書かれているんですね。
私は、ここを訪れると、いつも、この看板書きの光景に出会います。
この光景は、手作り感覚にいつも心が和みます。

場内に入ると、昔ながらの映画館の光景が広がります。
2層式の映画館(但し、2階席は現在は使われていない)暗めの場内に
正面の白いカーテン、その横に赤地に金色で広告の書かれた幕、
スクリーン横には次回上映作品が書かれています。
モノラルなのに何故か、あたらし目のスピーカが壁に並びます。
古いのは古いのですが、場内は掃除が行き届いていて、汚い感じは全くしません。

椅子はもちろん、古い固めの椅子、座席に座るとギシッと音がしそうですが、
こういう椅子が良いんです。名画座の場合。
椅子の下の暖房が、暖かく、ぽかぽかと映画スタート。

映写も丁寧で、音もモノラルだけどちゃんときれいに鳴る映画館。
これぞ正しい名画座の姿だと思います。
企業化された、システム化された映画館では絶対味わえない場所です。

上映作品も、ミニシアター作品が中心ですが、時として、なかなか劇場で
かからない作品がかかったりします。
私は、ここでやっと見つけた作品に多数出会いました。
「ミュリエルの結婚」、「居酒屋兆次」、「ヌードの夜」、「鬼火」などなど。

今や旧作はビデオが普通なのかもしれませんが、やはり映画は映画館で。
懐かしさと、和やかさと、暖かみのある名画座で観る映画は、
思い出も、感動もひとしおです。

                             (2000.2.13 「シュウシュウの季節」)